噛み合わせ治療に必要な歯列矯正の概念

少し専門的な話になりますが、アメリカでは1970年代に噛み合わせを科学的に解明して、不正咬合が原因で起こる咬合病を治療することを目的とする学会が盛んに行われました。そのなかにナソロジー学会というものがあり、ナソロジーを知らないものはデンティストにあらずといわれたくらい大きな組織でした。 ナソロジーは、上下の歯が最大に接触して噛んだ位置を「中心位」とし、それは顎を一番後ろに引いたところ、最後方位であるとしていました。しかし、その位置で噛み合わせをつ くるために、何でもない健康な歯を全部削ってクラウンで被せてしまいます。そして噛む位置は顎を一番後ろに引いたところですから、 こんな治療をされたらたまりません。当然、顎は前に行きたくなります。噛み合わせが悪いから治療したのにもかかわらず、治療してからの方が体調も悪く、 苦痛のために自殺する人もいたそうです。そうした失敗を繰り返しながら、中心位というものは時代とともに顎の前方を採るようになってきました。現在のアメリ カでは、ナソロジー学会にはわずか2000人くらいの会員しかいません。会員は自分たちの失敗した患者を分析しているだけで、なんの進歩もありません。
それでは日本の噛み合わせを専門にしている歯医者はどうでしょうか。残念ながらいまだにナソロジーを最高の学問として、実験的な治療を繰り返しています。健康な歯を削って噛 み合わせを調整したり、マウスピースのような調整器具を使い一次的に対症療法をしているに過ぎません。
噛み合わせは、綺麗な歯並び(歯列弓)があって始めて成り立つものです。綺麗な歯並びは、歯列矯正治療の概念とテクニックがなければ成り立ちません。 矯正治療ができないのに噛み合わせの治療が得意ですと、標榜しているのはおかしいのです。数年前に日本で発足した「全身咬合学会」というものがあります。その学会に入ると「噛 み合わせ認定医」というものがもらえるそうです。噛み合わせが大切であるという啓蒙にはなると思いますが、アメリカのナソロジー学会の二の舞いにならないようにしてもらいたいものです。日本人には日本人の噛み合わせがあるのですから。